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社会的適応(ノンメディカル)での未受精卵子凍結保存の説明書
社会的適応(ノンメディカル)での未受精卵子の凍結保存(以下、本法)は、加齢により卵巣機能の低下が懸念される場合に、この妊娠できる状態(妊孕性)を温存するための対応です。
本法は、妊娠を希望されるときになって夫婦の了解のもと、凍結保存しておいた未受精卵子を融解し、生殖補助医療における顕微授精を行って妊娠を目指すものです。「凍結保存しようとしても保存できない」、「凍結保存しておいても融解後に使用できない」、「受精卵=胚を移植しても妊娠できる可能性は約30%程度である」といった不確実な面があります。当院における本法実施は、日本産科婦人科学会(以下、学会)の「社会的適応による未受精卵子および卵巣組織の採取・凍結・保存についての見解」、「体外受精・胚移植に関する見解」、および「顕微授精に関する見解」に準拠して行います。
一般的に、女性年齢35歳以上では次第に、妊娠率が低下し、流産率や児の染色体異常の頻度が増加することが知られており、保険診療における生殖補助医療も女性年齢43歳未満 とされています。このことから当院における本法実施は採卵時年齢43歳未満とし、実施前に戸籍謄本または抄本を提出していただきます。また女性加齢によって妊娠分娩における母体や児の異常の発症頻度が増加することが知られており、凍結卵子融解利用は50歳未満に制限させていただきます。本法の卵子凍結は、成熟した卵子が対象になりますが、以下、成熟卵子や本法の有用性や問題点について説明します。
精子は、思春期頃から精巣において1つの細胞から2回の減数分裂によって約2ヶ月半で一日に数千万が造られています。一方、卵巣にある卵子は、第一減数分裂中期での休止状態で原始卵胞内に保管されていますが、胎児期には約700 万ありますが、出生時には約100 万、思春期には約20万、30歳頃には10 万以下に減少し、更年期頃には殆どなくなってしまいます。これら卵子は、順次、活動を再開する集団があり、約6ヶ月かけて月経頃には周囲に6~8mmの卵胞液が溜まった胞状卵胞へと変化します。この胞状卵胞は、脳下垂体から分泌される性腺ホルモンFSH/LHの刺激によって次第に大きくなり、このうちの1つだけが周囲に20㎜程度の卵胞液が溜まった成熟卵胞となりますが、他は途中で発育を停止し消滅してしまいます。この成熟卵胞内の卵子は、第一減数分裂を終了して第二減数分裂を開始した状態となって卵巣から放出(排卵)されます。この排卵された卵子に精子が侵入することで、卵子は第二減数分裂を完了して『受精』が成立することになります。未受精卵子の凍結保存は、この排卵直前の第一減数分裂を終了し第二減数分裂を開始した成熟卵子を採取(採卵)凍結し、液体窒素内に保存することになります。
採卵とは、卵胞を穿刺して卵胞液を吸引することにより、卵子を体外に取り出すことを意味します。通常、1周期に成熟する卵子は1つのみですが、採卵においては、採れそうなサイズの卵胞を穿刺しても卵子採取率は約70%であり、また成熟卵子は採れた卵子の約80%と考えられます。このようにして採取し凍結保存した卵子は、挙児を希望されるときになって融解して生殖補助医療(顕微授精)に用いることになりますが、融解時における卵子生存率は約90%、生存卵子に顕微授精を行っての受精率は約70%です。また受精を確認されても、そのうち移植できる胚盤胞に発育するものは約30%です。このようにして得られた胚を移植し、また残った移植可能胚は凍結保存し別周期に移植して、妊娠を目指すことになりますが、移植あたりの妊娠率は約30%という成績で、この妊娠成績は採卵時の女性年齢が大きく影響し、加齢が進むほど、妊娠率が低下し、流産率や児染色体異常の発症頻度が増加します。このような確率から、例えば採卵16できても、成熟卵子で凍結保存できるものは13程度、融解後の生存卵子は12程度、それを顕微授精して受精するものは8程度、移植できる胚に発育するものは2程度になってしまいます。このように本法は、保存しておけば妊娠できるといったものではなく、採卵しても卵子がとれない、採卵できても成熟卵子がない、凍結保存しても融解後に生存卵子がない、媒精しても受精卵が得られない、受精卵ができても移植胚が得られない、胚移植しても妊娠できない、妊娠しても健児が得られるとは言えない、といったもので妊娠の可能性を残すために試みる方法という位置付けであることを十分にご理解ください。
多くの凍結保存できる卵子を得るため、本法では、月経期の胞状卵胞の多くが成熟卵胞に発育するように排卵誘発剤(卵胞刺激ホルモン)を7-10日間程度、毎日連続注射します。また並行して、排卵が起こってしまわないように点鼻剤や注射を用います。通常、採卵のための準備期間として1周期を設けたり、また排卵誘発剤に対する反応が不良な場合には中止して別周期に繰り延べることがあります。 このほか排卵誘発剤の使用は、卵巣過剰刺激症候群(一時的に卵巣が腫大し腹水が溜まる)や血栓症(血液が血管に詰まる病気)などの合併症リスクや薬剤の副作用がありえ、また採卵については腹腔出血や感染症などの発症リスクがあります。
生殖補助医療で妊娠出産された子どもの割合は年々増加しており2020年には14人に一人となっています。現在、体外受精、顕微授精、凍結胚融解移植について、特別な異常の集中的な発症や増加はないとされていますが、長期間にわたる出生児の追跡調査は実施されておらず、将来、何らかの問題が報告される可能性は残ります。未受精卵の凍結保存については諸外国において、社会的適応、提供卵子を用いた治療などで「本法による融解卵子を用いた成績は、体外受精(顕微授精)と変わらない」とする多数の報告があります。
不妊治療における生殖補助医療の採卵については保険診療(女性年齢43歳未満)となっています。また、医学的適応の卵子凍結保存は公的補助(条件あり)の対象となっていますが、本法(社会的適応=ノンメディカル)については全額自己負担で補助対象になっていません。採卵に伴う費用、卵子凍結保存の費用は、当院ホームページに公開されている生殖補助医療の保険診療費の10割負担となります。なお、一年単位で保存期間延長費用が発生しますが、これは凍結保存する液体窒素ボンベは、気化した窒素でボンベの内圧が上昇して爆発を起こさないよう弁で圧力を調整するようになっており、1週間に2回程度に液体窒素をボンベに補充しなければならないためであり、また融解後に行う顕微授精、胚凍結保存、胚移植に際しては別途費用が必要になることをご了解ください(現在、融解使用における保険診療は認められていません)。また、保険診療費は2年(2022年スタート)に一度改定されますので、それに合わせて自費費用も改訂しますので予め了解ください。
将来の妊孕性の温存を目指す本法を理解し、実施するかどうか決断することは、身体的な負担や経済的な負担だけでなく、精神的な負担は大きなものと思います。当院職員は、この書面だけでなく十分な説明を行い、またファーストインタビューなど心理面の配慮も行いたいと思いますので、疑問や不明な点があれば診察室や相談受付でご相談ください。
岡山二人クリニック院長 羽原 俊宏