【津高本院】不妊治療のページです
体外受精の裏側:取り違えゼロを目指す“見えない監視システム”とは
「自分たちの受精卵、本当に間違いなく扱われているのかな…」体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)を受ける際に、多くのカップルが一度は感じる不安です。
今回ご紹介するのは、オーストラリアの研究チームが7万件以上の手技記録をもとに分析した「体外受精ラボでの取り違え(ミスマッチ)」に関する大規模調査です。最新の“電子見守りシステム(Electronic Witnessing System: EWS)”の導入で、ヒューマンエラーのリスクをどう減らしているのかが明らかになりました。

取り違えの実態:99.8%は問題なし、でも油断禁物
研究では、73,719の処理ポイント中、ミスマッチが起きたのは0.19%(138件)、うち実際に生殖細胞が関与した重大ミスマッチ(Critical Mismatch: CMM)は**0.02%(16件)**のみでした。決して高頻度ではありませんが、命を扱う医療においては、わずかでも許されないエラーです。
どんな時にリスクが高い?
分析によって、以下のような条件でミスマッチやCMMが起きやすいことがわかりました。
- 時間帯:ミスマッチは昼の12〜14時(ランチ時間帯)に多く、CMMは夕方16時以降が最多
- 手技の種類:CMMは**卵丘細胞除去(oocyte denudation)**で最も多く発生
- 作業者の違い:特定の個人(経験年数に関わらず)にミスマッチが集中する傾向あり
- ワークフローの混雑:複数の患者のIDカードやシャーレが同時にワークステーションに入るとアラートが作動
つまり、スタッフの疲労や集中力の低下、作業の重複や時間帯の偏りがリスクを高めるのです。
安全のために導入されていること
- 電子見守りシステム(EWS):RFIDタグで胚・精子・卵子・IDカードを管理し、異なる患者のものが混在した場合は即座にアラート
- ダブルチェックの徹底:EWSに加え、人による二重確認も重要手技では実施
- ワークフローの工夫:精子処理は1人ずつ、胚移植は別室で同時並行的に、など設計レベルで工夫
- 教育と記録の徹底:スタッフごとのログイン管理や定期的な訓練、手技の可視化と評価
患者として安心するために
- EWSが導入されている施設を選ぶ
- 治療開始前に「ラボでの管理体制」を質問してみる
- トラブルがあった際の対応方針を事前に確認する
これらの姿勢は、妊娠の確率を高めるだけでなく、「安心して任せられる」という精神的な支えにもつながります。
まとめ
ART(生殖補助医療)の現場は、技術の進歩とともに安全性も高まっています。今回の研究は、「どの時間帯・どの手技・どの要因でミスが起きやすいか」を明らかにし、すべてのカップルに“正しく扱われる安心”を届ける努力が続いていることを示しています。
≪出典≫
- Liu Y, et al. Risk factors for mismatches in the ART laboratory: an analysis of 73,719 electronic witnessing points. RBMO. 2025;50(5):104500. https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2024.104500