【津高本院】不妊治療のページです
AMHがカギ? 男性不妊治療の新しい可能性を探る
🧬骨の薬が「精子」に効くかもしれない?
みなさん、「デノスマブ(Denosumab)」という薬をご存じですか?本来は骨粗しょう症の治療薬で、骨を壊す細胞の働きを抑える“RANKL阻害薬”です。
ところが最近、この薬が男性不妊の改善につながるかもしれないという研究が注目されています。デンマークの研究チームが行ったこの臨床試験では、「血中AMH値(抗ミュラー管ホルモン)」が高めの男性に、デノスマブを1回注射して、その後の精子の変化を観察しました。

🔬どんな研究だったの?
この研究(FITMI試験)には、不妊症の男性179人が参加。2〜20百万/mLの精子濃度で、AMH値が38 pmol/L以上という条件でした。
- 参加者は「デノスマブ群」と「プラセボ群」に分けられました
- 「デノスマブ群」とは1回のデノスマブ皮下注射を受けました
- **80日後(およその精子が新しく作られるまでの期間)**に再び精液検査を受けました。
📊結果は…効果なし?
残念ながら、全体では精子濃度や運動率に有意な差はありませんでした。
- デノスマブ群:精子濃度 11.0 million/mL
- プラセボ群:精子濃度 12.0 million/mL
→ 差:-1.0 million/mL(有意差なし)
つまり、**「すべての男性に効く薬ではなかった」**という結果でした。
🌱でも、“一部の男性”には効果の兆し
研究者たちは、細かくデータを分析。すると、「精巣が小さめ(16mL以下)」で、かつ「停留精巣の既往がない」男性では、精子数が約30%増加する傾向が見られました。このグループでは、
- 精子濃度が 8.5 → 11.0 million/mL に上昇
- 運動率も改善傾向
まだ“探索的結果”ですが、特定の体質の男性には反応する可能性があると考えられます。
⚠️安全性は?
副作用はごく軽度で、
- 一時的な血中カルシウム低下(予防的にカルシウムとビタミンDを服用)
- 数名の腹痛(いずれも自然軽快)
などで、重い副作用はありませんでした。
🧠この研究からの学び
今回の結果から言えるのは、
- 男性不妊にも“個性”がある。
- **治療効果を予測できるマーカー(AMHや精巣サイズなど)**を探すことが重要。
- 「誰にでも効く薬」を探すよりも、“誰に効くか”を見極める時代になってきている。
ということです。
デノスマブ自体は骨の薬ですが、この研究をきっかけに、男性側の原因に焦点を当てた治療研究が進むことが期待されます。
🌈まとめ
男性不妊は、全カップル不妊の約半分に関係しているといわれます。それでも、女性側の治療が中心となりがち。今回の研究は、「男性も治療対象として“本気で向き合う”時代が来ている」ことを示しています。
いまは結果が「効果なし」でも、そのプロセスの中に未来の治療法へのヒントがたくさん詰まっているのです。
📚出典
Yahyavi SK, Holt R, Jorsal MJ, et al.
Effect of denosumab on semen quality in infertile men selected by serum level of antimüllerian hormone: a randomized controlled trial.
Fertil Steril. 2025;124(4):668–678.