【津高本院】不妊治療のページです
採卵の"トリガー注射"がなくても、卵子が採れた奇跡的なケース
~妊娠中に始まった採卵周期という、まれな出来事~
がん治療の前に卵子を凍結保存する「妊孕性温存」。
その最中に、実はすでに妊娠していたことが判明した、というまれな症例をご紹介します。
❓ どんな状況だったの?
乳がんと診断された32歳の女性が、抗がん剤治療の前に卵子凍結を行うことになりました。
排卵日を問わずすぐに始められる「ランダムスタート」という方法で採卵の準備を始めましたが、実は治療開始前に、すでにごく初期の妊娠をしていたことが、刺激中の検査で判明しました。
❓ 普通は"最後の注射"(トリガー)が必要なはずでは?
はい、通常は排卵を促す最後の注射(トリガー)が必要です。
しかし今回は、既に妊娠していたことで体の中の妊娠ホルモン(hCG)が非常に高い値になっており、このホルモンがトリガーと似た働きをした可能性があります。
❓ 結果はどうだったの?
トリガーの注射をせずに採卵したところ、📊 9個の成熟した卵子が採取でき、未成熟な卵子はゼロでした。
体からの自然なホルモンだけで、卵子が十分に成熟していたということです。
❓ その後どうなったの?
複数の科(生殖医療・腫瘍内科・妊娠初期対応)でよく話し合った結果、ご本人は人工妊娠中絶を選択し、予定通りがん治療を継続することになりました。
軽度の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が見られましたが、安全に経過しました。
❓ これって、よくあることなの?
いいえ、非常にまれなケースです。
研究者たちも「複数の成熟卵子が、トリガー注射なしで採れた」という報告は他に見たことがないとしています。
🌈 まとめ
- 卵巣刺激の途中でごく初期の妊娠が判明する、まれなケースがある
- このケースでは、体内の妊娠ホルモン(hCG)が自然なトリガーの役割を果たした可能性がある
- トリガー注射なしで、成熟した卵子が採取できた極めてまれな報告
- このような状況では、多職種でのカウンセリングと個別対応が重要
📋 院長からのコメント
がん治療前の妊孕性温存の最中に妊娠が判明するという、非常にまれで対応の難しい状況の症例です。多職種でしっかり話し合いながら進められた点が印象的でした。
ただし、極めて特殊な1例であり、通常の採卵方針の参考にはなりませんので、その点はご理解ください。
📚 出典
ElFarran MS, Palinska-Rudzka K, Mathur R. Mature oocyte retrieval without an exogenous trigger during random-start stimulation in a very early intrauterine pregnancy: a case report. Fertility and Sterility Reports. 2026;7(4):327-331.
