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「体質」が関係していた?自然妊娠で起こる卵巣過剰刺激症候群の最新報告
「OHSS(卵巣過剰刺激症候群)」というと、不妊治療の排卵誘発後に起こる合併症というイメージをお持ちの方が多いかもしれません。しかし実は、ごくまれに自然妊娠でもOHSSが発症することがあります。
🌱OHSSってどんな病気?
OHSS(Ovarian Hyperstimulation Syndrome)は、卵巣が過剰に刺激され、
✅ 卵巣が大きく腫れる
✅ お腹に水がたまる(腹水)
✅ 血液が濃くなる
✅ 重症では血栓症や腎機能障害
などを引き起こす状態です。
多くは排卵誘発剤使用後に発症しますが、今回の症例は**自然妊娠による「自然発症型OHSS(sOHSS)」**でした。
👩今回の患者さん
患者さんは23歳女性。 2回連続の自然妊娠でOHSSを発症していました。
妊娠12週で受診した際、
🔹 両側の卵巣が著明に腫大
🔹 最大で約**19cm**まで拡大
🔹 「Kissing ovaries(キッシングオバリー)」と呼ばれるほど巨大化
🔹 軽度の腹水あり
という状態でした。通常の卵巣は3~4cm程度ですので、その大きさが想像できるのではないでしょうか。
🤔なぜ自然妊娠でOHSSになるの?
通常、自然妊娠でOHSSが起こる場合は、
🔹 多胎妊娠
🔹 胞状奇胎
🔹 重度の甲状腺機能低下症
これらが原因となります。しかし今回の患者さんでは、
✅ 単胎妊娠
✅ hCG値は妊娠12週として正常範囲内(118,133 mIU/mL)
✅ TSH正常(3.07 mIU/L)
であり、一般的な原因は見当たりませんでした。
🧬原因は遺伝子だった?
そこで医師たちは遺伝子検査を実施しました。
その結果、FSH受容体(FSHR)遺伝子の新規変異
c.1379T>A(p.Leu460Gln)が見つかりました。
これは過去に報告されたことのない変異で、「Likely Pathogenic(病的である可能性が高い)」と判定されました。
🔬FSH受容体って何?
FSH(卵胞刺激ホルモン)は卵胞を育てるホルモンです。卵巣にはFSHを受け取るための FSH受容体(FSHR)があります。今回のような遺伝子変異があると、本来なら反応しない程度のホルモン刺激にも「過敏に反応」してしまう可能性があります。その結果、妊娠中の通常のhCG濃度でも卵巣が過剰反応し、OHSSを発症したと考えられています。
📈その後どうなった?
幸いにも保存的治療で経過観察が可能でした。行われた治療は、
💧 点滴による水分管理
💉 低分子ヘパリンによる血栓予防
でした。妊娠14週頃から卵巣は徐々に縮小し、25週には約52mmまで改善しました。
👶赤ちゃんへの影響は?
胎児発育はやや小さく、 胎児発育不全(3パーセンタイル未満)が認められました。
しかし、
✅ 胎盤血流は正常
✅ 胎児血流も正常
で経過し、妊娠38週0日に帝王切開で出生体重 2,775gの元気な赤ちゃんが誕生しました。
🌸妊活中の方へのメッセージ
今回の症例は非常にまれなケースですが、「体質」や「遺伝子」が妊娠中の卵巣反応に関係している可能性を示しています。特に、
✔ 過去の妊娠で原因不明の卵巣腫大があった
✔ 自然妊娠なのにOHSSと言われた
✔ 同様の症状を繰り返す
こういった方では、将来的に FSHR遺伝子検査が診断の助けになるかもしれません。
≪出典(MLA形式)≫
Loheit, Anne-Christin, et al. “Spontaneous Ovarian Hyperstimulation Syndrome with a Previously Undescribed Gene Mutation of the Follicle-Stimulating Hormone Receptor Gene: A Case Report.” F&S Reports, vol. 7, no. 3, 2026, pp. 203–207.
🩺院長からひとこと
OHSSというと不妊治療に伴う合併症として知られていますが、今回の報告は「自然妊娠でも遺伝的背景によって発症しうる」ことを示した貴重な症例です。
生殖医療は「妊娠する」だけでなく、「安全に妊娠を継続する」ことも大切です。
今後はこうした遺伝学的な知見が進むことで、患者さん一人ひとりに合わせた、より精密な生殖医療へと発展していくことが期待されます。
