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「遺伝するかもしれない」という不安に新たな選択肢:着床前遺伝学的検査(PGT-M)の進歩

「遺伝するかもしれない」という不安に新たな選択肢:着床前遺伝学的検査(PGT-M)の進歩

2026/07/28#研究論文ご紹介

「自分の病気が子どもに遺伝するかもしれない…」遺伝性疾患を持つ方にとって、妊娠や出産は大きな希望である一方、深い不安を伴うことがあります。

近年は、 PGT-M(着床前遺伝学的検査)によって、遺伝性疾患を持たない胚を選んで移植することが可能になっています。しかし、すべての遺伝病でPGT-Mが実施できるわけではありません。

PGT-Mについての詳細は、日本産科婦人科学会の資料をご確認ください。

今回ご紹介するのは、色素失調症(Incontinentia Pigmenti:IP)という希少遺伝病を持つ女性が、新しい技術によってPGT-Mを成功させた症例報告です。

 

色素失調症(IP)ってどんな病気?

色素失調症は、 X染色体に関連する遺伝性疾患で、皮膚・歯・髪・目・神経などに症状が現れることがあります。

特徴的なのは、約70%が新しく生じた突然変異(de novo変異)によって発症することです。つまり、家族歴がないのに発症するケースが多い病気です。

なぜPGT-Mが難しかったの?

通常のPGT-Mでは、遺伝子異常を特定するために家族のDNA情報を利用して「どの遺伝子が病気と関連しているか」を調べます。しかし今回の患者さんは、「29歳」・「妊娠歴なし」・「家族に同じ病気の人がいない」というケースでした。そのため、「遺伝子解析に必要な比較対象がない」という大きな問題がありました。

新たに考案された「ダブル生検法」

そこで研究チームが考案したのが、同じ胚から2回同時に栄養外胚葉生検(TE biopsy)を行う方法です。

通常は1回だけ採取する細胞を、
🔹1つ目 → 染色体検査(PGT-A)
🔹2つ目 → 遺伝子異常の直接解析
に利用しました。この方法によって、これまでPGT-Mが困難だった症例でも検査が可能になったのです。

実際にどれくらい胚ができた?

患者さんは最初の採卵周期で、成熟卵子 19個を採取しました。その後、顕微授精(ICSI)を行い、 11個が胚盤胞まで発育しました。このうち 8個の胚盤胞にダブル生検が実施されました。

検査は成功したの?

結果は大成功でした。研究チームは、
🧬 病気の遺伝子を持つ胚
🧬 持たない胚
を正確に判定することに成功しました。検査精度は98%と報告されています。

最終的に何個の胚が使えた?

患者さんは、多くの子どもを希望していたため、採卵をもう1周期追加しました。その結果、合計21個の胚盤胞を獲得。その中から、
✅ 染色体が正常(euploid)
✅ 病気の遺伝子を持たない
胚を選別した結果、10個の移植可能胚が得られました。

妊娠はできたの?

最初の単一胚移植(SET)では、妊娠成立しましたが、残念ながら初期流産となりました。流産組織を詳しく調べたところ、
🔹染色体異常なし
🔹IP遺伝子異常なし
でした。

その後、2回目の単一胚移植を実施し、妊娠継続中と報告されています。

この研究が意味すること

今回の症例は、単なる1例報告ではありません。これまで、
❌ 家族内に患者がいない
❌ 突然変異による遺伝病
❌ 特殊な遺伝子異常
では、PGT-Mが困難なことがありました。しかし今回の方法によって、「PGT-Mは無理です」と言われていた患者さんにも新たな可能性が生まれました。

患者さんへのメッセージ

遺伝性疾患を持つ方にとって、「子どもに遺伝するかもしれない」という不安はとても大きなものです。一方で、生殖医療や遺伝学は急速に進歩しています。今回の研究は、遺伝病があっても妊娠・出産を目指せる可能性が広がっていることを示しています。

もしご自身やご家族に遺伝性疾患がある場合は、生殖医療専門医や遺伝カウンセラーに相談することで、新しい選択肢が見つかるかもしれません。

まとめ

✅ 色素失調症(IP)の患者さんの症例報告
✅ IPの約70%は突然変異で発症
✅ 29歳女性がPGT-Mに挑戦
✅ 成熟卵子19個から11個の胚盤胞を獲得
✅ ダブル栄養外胚葉生検という新技術を使用
✅ 検査精度は98%
✅ 最終的に10個の正常胚を確保
✅ 2回目の単一胚移植で妊娠継続中

遺伝病と向き合うご夫婦にとって、生殖医療の進歩は大きな希望になります。「難しい」と言われていたケースでも、新しい技術によって未来が開ける時代になってきています。

≪出典≫

Gemmell, Laura C., et al. “Simultaneous Trophectoderm Biopsies Enable Preimplantation Genetic Testing for Monogenic Disorders in a De Novo Case of Incontinentia Pigmenti: Case Report.” F&S Reports, vol. 7, no. 3, 2026, pp. 242–246. 

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