【津高本院】不妊治療のページです
培養液に“抗酸化剤”を入れると 妊娠率が上がる?
体外受精(IVF/ICSI)を頑張るカップルにとって、
「少しでも妊娠の可能性が上がる方法があるなら知りたい!」という思いはごく自然なものです。
近年、“抗酸化剤入りの培養液”が注目されています。抗酸化剤は、卵子や精子、胚が受けるストレス(酸化ストレス)を減らす働きが期待されており、「受精率が上がるらしい」「妊娠率も良くなるのでは?」と話題になってきました。
今回は、1,482人を対象とした大規模なランダム化比較試験(RCT) から「本当に妊娠率は上がるのか?」といった研究報告を紹介します。

1. どんな研究?
メルボルン IVF(オーストラリア)による研究で、卵子採取から受精・培養までのすべてのステップで抗酸化剤入り培養液を使用した場合、通常の培養液と比べて妊娠率に差が出るか?を調べました。
使われた抗酸化剤は3つの組み合わせ(A3)
- アセチル-L-カルニチン(ALC)
- α-リポ酸
- N-アセチルシステイン(NAC)
【対象者】1,482例
【研究手法】RCT(ランダム化)
【比較】通常の培養液 vs 抗酸化剤入り培養液
【主要評価】新鮮胚移植での妊娠率(胎児心拍の確認)
2. 結果:妊娠率は「変わらなかった」
まず、もっとも気になる妊娠率。
- 通常培養液:26.1%
- 抗酸化剤入り:22.9%
統計的な差なし。つまり妊娠率は改善しなかった、という結果でした。
(むしろわずかに低い傾向ですが、偶然の範囲)移植した胚の質や、出産に至るまでのアウトカムも大きな違いはありませんでした。
3. 受精率は「上がった」
▶ 受精率(全体)
- 通常:59.2% → 抗酸化剤入り:64.5%(有意に上昇)
▶ 顕微授精ICSI受精率
- 通常:57.9% → 抗酸化剤入り:68.3%(大幅改善)
この影響で、胚盤胞の数が増え、凍結できる胚も多くなる というメリットが得られています。ただし、「新鮮胚移植の妊娠率を上げるか?」という点では効果は見られませんでした。
4. なぜ妊娠率は変わらなかった?
考えられる理由は複数あります。
● 胚培養の技術がすでに高レベル
現代の培養は低酸素環境で行われるため、もともと酸化ストレスが少ない環境が整っています。
● 抗酸化剤のメリットは「受精」段階で強い可能性
- 卵子や精子のストレス軽減
- ICSI の物理的ストレスに対する保護
これらは受精率には反映されるものの、その後の“着床〜妊娠継続”という複雑なステップには別の要因が大きく関わるためと考えられます。
5. この研究から言えること
- 妊娠率(新鮮胚移植)を上げる確実な証拠はない
- 受精率を上げ、胚の数を増やす効果はある→ 特に ICSI では効果が大きい
- 今後、凍結胚移植(FET)での結果がどうなるかに注目(過去の研究では FET で妊娠率が改善した報告もある)
6. 不妊治療を受ける方へのメッセージ
今回の研究結果は、「抗酸化剤入り培養液を使えば、必ず妊娠率が上がる!」
という魔法のような答えではありませんでした。
ただし、「受精率が上がって胚が増える」=治療戦略の幅が広がるという意味では、非常に価値のある知見です。不妊治療は、“確率を少しでも積み重ねる”ことが最も大切です。治療選択に迷ったときは、担当医と「あなたにとっての最適になる」よう一緒に考えていきましょう。
≪出典≫
Kelley RL, et al. A prospective randomized controlled trial of antioxidants in human IVF and embryo culture media. Human Reproduction. 2025;40(11):2088–2100.