体外受精や顕微授精により出来上がった受精卵(胚)の細胞の一部を採取(生検)し、その細胞の染色体や遺伝子の異常の有無を調べるのが着床前診断です。
PGT-Aとはどんな検査?
このPGT-A検査は、現在、日本産科婦人科学会の特別臨床研究として行われているもので当院も実施医療機関として施設認定登録されています。
なぜ、PGT-Aが必要なのか?
- 体外受精をする女性の高齢化などにより、移植をしても妊娠しない、流産を繰り返すカップルも増えています
- この理由の一つに受精卵の染色体異常があります
- 受精卵の染色体数などに異常があると受精卵は着床できなかったり、妊娠初期に流産となります
- 受精卵の染色体の数はかたちをみてもわかりません
- 受精卵の染色体数を調べ、数に異常がない受精卵を移植することで流産を減らし、妊娠率や出生率を高めることが期待されています
PGT-Aを行う場合の体外受精の流れ
凍結保存する前の胚盤胞のTE(栄養外胚葉)細胞を5細胞程度取り出し、NGS(次世代シークエンサー)により染色体の異数性の有無を検査し、残った大部分の細胞群である胚盤胞を凍結保存します。検査結果が出てから、染色体解析結果が正常核型であった胚盤胞を優先して融解移植します。
PGT-Aのメリットとデメリット
メリット
- 妊娠率が上がる可能性
- 流産率を下げる可能性
- 流産による身体的・精神的ストレスの軽減
デメリット
- 受精卵へのダメージを与える可能性
凍結できない、融解後に移植できない、移植しても妊娠できない
流産する、赤ちゃんに影響を与える可能性 - 赤ちゃんとして生まれる可能性がある受精卵が移植に適さないと判断される可能性
- 解析結果によっては正常か異常か判断できない場合がある
- 生涯にわたって影響がないかどうか不明
- 検査に必要な費用がかかる
【反復ART不成功】 PGT-A臨床研究の対象者
選択基準
- 日本産科婦人科学会の定めるART適応基準に合致する方
- 直近の胚移植で2回以上連続して臨床的妊娠が成立していない方
- 臨床研究の参加に配偶者と共に文書による同意の取得が可能な方
除外基準
- 夫婦両方の染色体検査(必須ではありませんが)の結果、夫婦いずれかに均衡型構造異常が認められる方
- 重篤な合併症を有する方
- その他、臨床研究責任医師又は臨床研究分担医師が不適切と判断した方
【習慣流産(反復流産を含む)】PGT-A臨床研究の対象者
選択基準
- 日本産科婦人科学会の定めるART適応基準に合致する方
- 過去に臨床的流産を2回以上経験し、流産時の臨床情報が得られている方
- 臨床研究の参加に配偶者と共に文書による同意の取得が可能な方
除外基準
- 夫婦両方の染色体検査(検査が行われていることが必須です)の結果、夫婦いずれかに均衡型構造異常が認められる方
- 子宮形態異常と診断された方
- 抗リン脂質抗体症候群と診断された方
- 重篤な合併症を有する方
- その他、臨床研究責任医師又は臨床研究分担医師が不適切と判断した方
【染色体構造異常】 PGT-A臨床研究の対象者
選択基準
- 日本産科婦人科学会の定めるART適応基準に合致する方
- 夫婦いずれかにリプロダクションに影響する染色体構造異常を有する方
- 臨床研究の参加に配偶者と共に文書による同意の取得が可能な方
除外基準
- 重篤な合併症を有する方
- その他、臨床研究責任医師又は臨床研究分担医師が不適切と判断した方
PGT-Aの留意点
- 採取して検査した細胞に染色体異常がなくても、その受精卵の全てに染色体異常がないとは言えず、細胞によって染色体が異なる(モザイク)可能性があります
- 受精卵から採る細胞は将来、胎盤になる部分なので、赤ちゃんの染色体とは異なる場合もあります
- 受精卵の細胞を採ることは、残った受精卵にダメージとなり、もともと妊娠できるはずだった受精卵が、胚移植できなかったり、移植しても妊娠できなくなる可能性もあります
- 「検査したら移植できる胚がなかった」という結果になる可能性も高く、問題になっています
- 検査方法は完璧では無いため、判別がつかず、そのまま移植すれば妊娠するかもしれない受精卵に疑いを持って、移植しない選択をする危険性(偽陽性)も指摘されています
- 異常がある場合に「移植可能」と判断され、移植に用いられることも予測されます(偽陰性)
- PGT-Aの検査精度は100%ではありません。最も一般的な受精卵のPGT-Aにおいて、判定精度は80~90%と推定されています
- 本解析方法では、流産の15%を占める倍数体の判定はできません
- 原因不明の習慣流産の41%は胎児の染色体異常によるといわれていますが、25%は胎児の染色体が正常でも流産を繰り返しています。そのため、PGT-Aの判定が正しくても流産を起こすことがあります。
- PGT-Aは、諸外国ではすでに行われており、理論的にはうまく行きそうですが、本当に一人一人の女性にとって出産できる可能性が高くなるのかどうかの結論は出ていません
その他(PGT-A特別臨床研究)
- 分割期胚でのPGT-Aはできない
- 検査結果をお伝えできるまで3週間くらい
- 移植可能な受精卵が得られた場合、次の治療は原則として移植
- 性別はお伝えしません
- PGT-Aは染色体数の異常に起因する流産リスクを下げることは期待できる
それ以外の原因による流産のリスクを下げるかどうかや、
病気を持つかどうかなどは分からない - 染色体異常を持たないとは言えない
- 妊娠中に確定検査を希望される場合には、羊水検査などをご検討ください