着床不全とは
「着床不全」は、「形態良好胚を3回以上移殖したにも関わらず、連続して着床診断(血清hCG陽性)が得られない場合」とされています。「着床不全」の原因としては、「胚自体の問題」、「母体の問題」、あるいは「胚自体と母体の両方の問題」が考えられます。「胚自体の問題」に対しては、これを治療する方法はなく、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A) (胚盤胞の将来胎盤になる細胞の数個を取り出し、染色体に数的異常がないか確認し、その検査で異常が見つからなかった凍結胚盤胞を優先して融解移植する方法)が考えられます。また「母体の問題」としては子宮・卵管因子、免疫、栄養などが考えられています。
原因検査および治療
胚の原因(精子および卵子を含む)、母体の原因(子宮因子、免疫因子)、ご夫婦の原因(同種免疫因子)、染色体、さらには全身的原因(心理、栄養)について検査を行ない、異常がみつかれば、その治療を進めてゆきます。
胚自体の問題
- 胚(受精卵)の質に関連する、精子・卵子・胚の再評価を行います
- 着床前胚染色体異数性検査(PGT-A):直近の胚移植で2回以上連続して臨床的妊娠が成立していない方
母体の問題
1.着床の場となる子宮自体に異常がないか調べます
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超音波検査・子宮卵管造影検査
治療
子宮筋腫・子宮腺筋症:GnRHリュープロレリン注射、子宮筋腫・子宮奇形・卵管水腫:手術
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子宮鏡・子宮内膜組織診(形質細胞マーカーCD-138)
治療
慢性子宮内膜炎:抗生物質を投与します
子宮鏡検査:良好胚(受精卵)を移植しても妊娠が成立しない場合、子宮内環境を原因とする着床の障害が疑われます。中でも潜在的な子宮内膜の炎症がある場合に着床不全を呈することがあると考えられています。子宮内腔に内視鏡を挿入して観察をおこないますが、細径(3mm)のため子宮頸管を柔らかくするための前処置や静脈麻酔は必要ありません。
慢性子宮内膜炎とは
慢性子宮内膜炎(CE:chronic endometritis)は自覚症状に乏しい局所炎症性疾患で、子宮内膜に「形質細胞」というリンパ球が侵入している炎症状態です。無症状のことも多い良性の病気ですが、不妊症との関連性が徐々に明らかになってきています。子宮鏡検査(HFS)で慢性子宮内膜炎の診断がなされていましたが、偽陰性(本当は内膜炎なのに正常と判断すること)や偽陽性(本当は内膜炎はないのに炎症があると判断する)となることもあり、確定診断のために当院では、内膜の基底層にある組織を採取してCD138という特殊な免疫染色を行って、内膜組織内に形質細胞が全視野に5個以上あれば、陽性と判断して適切な抗生剤を投与します。
2.着床不全関連検査 (ERA-EMMA-ALICE)
ERA(子宮内膜着床能検査)EMMA(子宮内マイクロバイオーム検査)ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)は、ERA検査で『着床の窓』を特定し、EMMA/ALICE検査で子宮内の細菌バランスと病原菌の有無および各菌の占める割合を調べます。
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ERA (子宮内膜着床能検査:着床の窓検査):融解移植と同じ条件で子宮内膜を採取します
治療
着床の窓(WOI)がずれていた場合、再検査および個別化し(着床の窓を特定)胚移植を行います -
EMMA (子宮内マイクロバイオーム検査:子宮内の細菌バランス・ラクトバチルス属の割合)
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ALICE (感染性慢性子宮内膜炎検査:病原菌の有無および各菌の占める割合)
治療検出された細菌に対し、推奨されるプロバイオティクス/抗生物質療法を提案します 慢性子宮内膜炎の病原菌を特定し、かつ個別化された治療が可能になります
3.自己免疫因子:自己免疫疾患や血液凝固異常からの子宮の血流障害が原因になる可能性があります
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抗リン脂質抗体・ループスアンチコアグラント・抗核抗体・甲状腺抗体など
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血液凝固検査: aPTT・第12因子・protein C & S活性
治療
低用量アスピリンなどによる抗凝固療法を行います
4.同種免疫因子:夫婦の組織型の相性が悪いと胚を異物と勘違いし、着床しにくくなると考えられます
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Th1/Th2比
治療
免疫抑制剤投与を行います。
免疫学的妊娠維持機構としてTh1/Th2バランスが注目されています。母体が受精卵を異物として拒絶することなく、着床・妊娠が維持されるのは細胞性免疫を司るTh1細胞機能が低下し、抗体産生を司るTh2細胞機能が亢進するためと考えられています。着床あるいは妊娠継続しにくい免疫学的原因としては、抗リン脂質抗体などの自己抗体によるものと、臓器移植の拒絶反応に準じた機序が考えられ、どちらもTh1/Th2バランスの破綻が示唆されています。
5.栄養因子:毎日の食事やライフスタイルを通して、着床しにくい栄養状態がないか調べます
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BMI値
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ビタミンD
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亜鉛
治療
管理栄養士が食事・運動に関するアドバイスを行い、不足する成分をサプリメント等で補います
免疫学的妊娠維持機構としてTh1/Th2バランスが注目されています。母体が受精卵を異物として拒絶することなく、着床・妊娠が維持されるのは細胞性免疫を司るTh1細胞機能が低下し、抗体産生を司るTh2細胞機能が亢進するためと考えられています。着床あるいは妊娠継続しにくい免疫学的原因としては、抗リン脂質抗体などの自己抗体によるものと、臓器移植の拒絶反応に準じた機序が考えられ、どちらもTh1/Th2バランスの破綻が示唆されています。
ビタミンD
ビタミンD受容体は子宮内膜、子宮筋層、卵巣、子宮頚部、乳腺に存在し、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性ではビタミンD不足の頻度が高く、PCOSによる排卵障害の女性はビタミンD補充によって排卵率が上がります。また、ビタミンDは女性の生殖(卵胞発育、排卵、月経周期、多嚢胞性卵巣症候群、AMHなど)に関連し、ビタミンDが不足すると体外受精の妊娠率低下・習慣性流産に関与・新生児の体重や妊娠期間・妊娠高血圧症候群といった妊娠合併症・新生児の発育障害のリスクが高くなるとの報告があります。
亜鉛検査
亜鉛は、ビタミンと並んでミネラル物資として人間には必要なものです。亜鉛は牡蠣や牛肉に多く含まれています。銅亜鉛が注目されるようになったのは、銅を体外にうまく排出できない疾患であるwillson病の婦人が不妊症や不育症である率が高く、その方に亜鉛のサプリメントを内服してもらったところ、血中の亜鉛が増え、銅が減り妊娠出産に至ったという報告があります。
6.染色体因子:着床障害の原因となる染色体異常がないか調べます
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夫婦染色体検査
治療
染色体の構造異常が認められた場合、希望によりPGT-Aについてカウンセリングを行います