男性の望妊治療

【不妊症の基本知識】

「妊娠を希望し、通常の夫婦生活があるのに、1年以上経っても妊娠成立しない状態」を不妊症と言います。最近では、5~6組の夫婦のうち1組が不妊症であると言われています。不妊症というと、女性が原因と考えられがちですが、男性にも原因があることが約半数のカップルに認められます。不妊治療(望妊治療)は不妊原因を互いに押し付け合うものではなく、カップルで挙児希望を「できるだけ早く、できるだけ自然に」達成しようとするものです。女性加齢も妊娠しにくい原因になりますので、思い立ったらできるだけ早く、夫婦そろって専門医療機関に受診されることをお勧めします(図1)


【男性の検査】

 まず基本となるのが「性交後検査(フーナーテスト)」です。この検査は、男性に受診していただく必要は必ずしもなく、女性の排卵期に関係をもって女性に受診していただき、子宮の入り口である頚管粘液に精子が進んでいることを確認します。この検査で元気な精子が認められない場合は、女性側の受け入れ条件が悪い場合もありますが、「精液所見が良くない」、「うまく射精できていない」といった男性側に問題がある場合もあります。

 男性も診療録(カルテ)を作成しますので、Web から問診票を送り保険証を持参してください。プロペシアやザカーロなどの男性型脱毛症の薬剤は精液所見を不良にする可能性がありますのでご注意ください。

 精液検査は排卵期を避けて予約してください。精液検査はバラツキが大きい検査ですので、不良な場合は再検査をお勧めします。これら検査で不良な場合は、採血検査(ホルモンと感染症)と男性外来受診をお勧めします(図2)

精液に精子がみつからない無精子症や、精子が極めて少ない場合には、染色体検査、Y 染色体上に存在するAZF 領域に異常がないかの追加採血検査を行います(祝日・日曜およびその前日を除いた日の午前中)。AZF 領域は、AZFa、AZFb、AZFcの3つの領域に分かれますが、AZFa または AZFb が欠失している場合は絶対的な無精子症となり、顕微鏡下精巣内精子採取術 (micro TESE) を施行しても精子採取は不可能と考えられています。AZFc 領域単独の欠失ではmicro TESE の適応となります。ただし、Y 染色体上に AZF が存在しているため、顕微授精で男児を授かった場合に、AZFc 領域の欠失を受け継ぐ可能性があります。

 男性外来では、精管、精巣、精巣上体の診察と、精索静脈瘤がないか診察します。場合によっては超音波検査を追加することがあります。精液所見や採血検査結果とあわせて、最適な治療を提案させて頂きます。これらの所見は、原則として夫婦で共有し、望妊治療に反映する必要があります。

 また、勃起不全(ED)やその他の性機能障害に関する相談治療もお受けしています。

【男性の不妊原因と治療】

男性の不妊原因を分類すると、①精子をうまく造ることができない (造精機能障害)、②精子の通り道がつまっている (精路の閉塞)、③勃起や射精がうまくできない (性機能障害)に大別することができます。

①造精機能障害

 世界保健機構の提唱する精液所見の正常値は、液量:1.5 ml以上、濃度(数):1500万 /ml 以上、精子運動率:40% 以上、正常精子:4% 以上です。造精機能障害があると、この数値のいずれか、もしくは全てが正常値を下回ります。この原因としては、約70% が特発性 (原因不明) 、約20-30% が精索静脈瘤で、内分泌異常や染色体異常はごく少数です。造精機能障害の分類を(表1)に示します。

1)精索静脈瘤

精機能障害の中の20-30% を占める精索静脈瘤は治療可能な疾患です。精巣のすぐ上の静脈叢の血流がうっ滞し、こぶ状のしこりが作られることがあります。血流不全による熱ストレスや酸化ストレスが、造精機能障害の原因になると考えられています。また造精機能障害だけでなく、陰嚢や鼠径部の痛みや違和感を訴える方もいます。診断は、触診と超音波検査を用いて行い、静脈瘤の大きさによってグレードを分類します。グレードと精液所見や他の身体所見、採血所見から、総合的に判断して、十分なインフォームドコンセントの上、手術適応を決定します。手術は顕微鏡を用いて、こぶ状の静脈を処理する手術 (顕微鏡下低位結紮術)で、局所麻酔下に1時間程度で完了します。連携先である川崎医科大学附属病院で1泊2日の入院で行っています。過去5年間に、当院から紹介した患者さんの手術実績は200例を超えています(表2)

皮膚の傷は鼠径部に2.5cm 程度で、抜糸の必要のない糸で縫います。退院翌日から仕事復帰は可能ですし、傷はほとんど目立たなくなります。合併症と再発は5%以下です。一連の精索静脈瘤の診断から川崎医科大学附属病院での手術まで全て保険診療で行えます(表3・2-A-168 精索静脈瘤と診断された患者さまへ参照)

手術後に追跡可能であった約150例の精液検査の成績を(表4)に示します。

精液所見の各パラメーターで改善が認められていました。ただし、治療成績には個人差がありますので、必ずしも全員の精液所見が改善するわけではありません。詳細は医師から直接説明を聞いてください。また術後、妊娠率69.2%、生産率51.6% と良好な成績を得ています。最近のトピックスとして、精索静脈瘤の治療は体外受精の成績にも寄与することが分ってきました。当院での精索静脈瘤治療後の顕微授精の成績について後方視的に検討しましたが、(表5)に示しますように手術を行うことで、顕微授精の成績が改善することが示唆されています。

2)内分泌異常、染色体異常、物理化学因子など

造精機能障害の上記の原因については、個別の治療計画が必要になります。精液中の精子の有無が重要な点になりますが、無精子症であった場合は、顕微鏡下精巣内精子採取術 (micro TESE) の検討が必要になります。また遺伝性疾患を疑う場合には、連携病院での遺伝外来受診やカウンセリングも案内します。内分泌異常では、全身精査や場合によってはホルモン補充や薬物治療も考慮します。

3)特発性造精機能障害(原因不明)

多くがこれにあてはまります。残念ながら、現在の医学では根本的に治療することは不可能です。多くの患者さまからの「何かできることはないですか?」との声を受け、文献的に精液所見の改善効果があったとされる下記のサプリメントを用意しています。精子が造られ始めてから体外に出るまで約3か月かかりますので、最低3か月間はサプリメントを摂取してみることをお勧めしています。>>>link:(2-A-170 男性サプリメント説明書参照)<<<

②精路の閉塞

 原因は、先天的な疾患、感染症後、医原性、パイプカット後など多岐にわたります。精路の再建 (閉塞を治す) が第一選択ですが、精巣から精子を採取する肉眼的精巣内精子採取術 (simple TESE) も広く行われていますが、この場合は、1個の卵子に精子を注入する顕微授精が適応になります。以前は、精子の通り道を調べる精管造影を行っていましたが、この手技自体が患者さんに負担になるため、現在は推奨されていません。閉塞性無精子症の治療については、後述の無精子症の項でお伝えします。

③機能障害

 男性不妊症における性機能障害は、勃起障害 (ED) と射精障害に大別できます。男性不妊についてだけでなく、これらは生活の質を著しく低下させる原因と言えます。適切な治療を行うことが必要です。

1)勃起不全(ED)

ED の分類を(表6)に示します。20~40歳前半のEDは、心因性がほとんどです。「排卵日ED」という言葉がありますが、排卵日の過度なプレッシャーは、男性をEDにさせてしまう恐れがあります。普段から夫婦仲良く、排卵日に関係なく数日毎の夫婦生活が勧められます。心因性 ED についても薬物治療が推奨されます。PDE5 阻害薬という薬剤で、現在、バイアグラを含む3種類のPDE5 阻害薬(シアリス、バイアグラ、レビトラ)が発売させています。当院では、食事との関連が低く効果時間が長いシアリスを処方しています。この年代で心因性に次いで多い原因は、薬剤性が考えられます。特に心療内科から処方されている薬剤は注意が必要です。また、勃起機能に異常のある器質的 ED の方の診察もお受けしています。ED 治療と望妊治療を並行して行っていきます。


2)射精障害

 うまく膣内に射精ができない患者さんや挿入前に射精をしてしまう早漏の患者さんなども性機能障害にあたります。これらは特に射精障害に分類されます。射精障害の分類を(表7)に示します。

早漏/遅漏/膣内射精障害はコントロールができない射精障害です。早漏もパートナーとトレーニングすることで治療可能です。また、膣内射精障害についてはマスターベーターを用いたリハビリが有効です。逆行性射精とは、部分的または完全に膀胱内に射精される状態で、原因としては、特発性、薬剤性、糖尿病、腹部手術後等、様々です。薬物治療が奏功する場合がありますが、薬物療法が無効な完全逆行性射精の患者さんでは、膀胱内から精子を回収するか、または精巣内子採取術 (simple TESE) によって精巣内精子を採取します。希望があれば、詳しい精査の上、川崎医科大学附属病院と協力して、逆行性射精自体の外科的治療も行います。無射精 (射精がおこらない)、精液量の減少、勢いのない射精、射精時痛やその他の身体的苦痛/オーガズム障害に関しては、診断・治療に射精時の超音波カラードプラ検査が有効で、患者さんの希望があれば川崎医科大学で精査を受けることもできます。個別に治療計画を立て、射精障害治療と望妊治療を並行して行っていきます。

 恥ずかしさ故に、受診を敬遠されがちですが、どんな性機能の悩みでも勇気を出して相談して頂きたいと思います。解決策は見つかります。受診することが、妊娠出産の一番の近道です。

④無精子症

 無精子症は、精子が造られているが精子の通り道が閉塞している閉塞性無精子症(OA:obstructive azoospermia)と実際、精巣で精子が造られていないか、もしくは精子が造られているが極々少数で体外まで出ることができない非閉塞性無精子症(NOA: non-obstructive azoospermia)に分かれます。

1)閉塞性無精子症 (OA):

 OA の診断は、血清内分泌検査と精巣体積にて行うのが一般的です。現在、精管造影は患者さんの負担や二次性の精管狭窄や閉塞が危惧され、一般的ではありません。OA 症例において、まず精路再建を考慮しますが、自然妊娠までのハードルはやや高いことを念頭に置いておく必要があります。閉塞部位が分からない患者さんもおられ、長期の精路閉塞が造精機能障害も引き起こしている可能性があります。当院では、OA 男性のパートナー年齢が35歳以上であるカップルが約半数を占めていました。晩婚化が進む本邦では、OA を含む全ての不妊治療において、パートナー年齢を考慮した治療戦略が最も重要です。当院での OA の検討でもパートナー年齢が若い症例ほど出産まで至る傾向は顕著です。より早く挙児を望むカップルや女性年齢が高いカップルには、肉眼的精子採取術 (simple TESE) を推奨します。simple TESE は局所麻酔で行います。陰嚢に5mm 程度の切開を行い、精子採取を確認しながら手術を進めます。ただし、ホルモン検査と精巣体積が正常である NOA が存在しますので、術前に OA の診断であっても simple TESE では精子が採取できない場合があります。その際は、後述する micro TESE へ術中に移行します。

2)非閉塞性無精子症 (NOA):

 ホルモン検査、身体検査、AZF領域の検査、染色体検査を行い、NOA の診断および顕微鏡下精巣内精子採取術 (micro TESE) の適応を決定します。NOA であっても精巣内のごく一部の場所で精子が造られている患者さんがいることが分かっています。このため、そのごく一部の場所を探すために、顕微鏡を用いて精巣内を観察し、精子が造られていそうな場所の精巣組織(精細管)を採取します。これが、micro TESE の概念です。当院では、先にも述べましたが、AZFa とb に欠失を認めた患者さんへの micro TESE は、原則、行っていません。それ以外の NOA の患者さんは、ほぼ全例がmicro TESEの適応となります。micro TESEは、全例局所麻酔の日帰り手術です。1時間30分程度で完了します。採った精巣組織をその場でほぐし、培養士による検鏡を行って精子の有無や精子を造るもとの細胞の有無をリアルタイムに観察します。これら一連の手技は、実際に micro TESE を受けている患者さんもその場で見ることができ、手術中に執刀医から説明を聞くことができます。手術風景の写真を供覧します (写真1)。局所麻酔で行う最大の利点は、日帰り可能であること、および患者さんと手術担当医・胚培養士との手術所見や精巣所見の共有ができることにあります (写真2)。当院での micro TESE の成績を示します (表8)。合併症は、術後の創部感染2例となっています。精巣は、精子を造る以外にも男性ホルモンを造る重要な臓器です。micro TESE は精巣に負担がかかりますので、術後には男性ホルモンの低下がないか厳重な経過観察が必要になります。術後12カ月間は、当院の男性外来に定期的に通院して頂いています。